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柴田侑宏先生の万葉ロマン3部作のひとつで何回も再演されている名作です。
私は、BバージョンのDVDを楽しませていただきました。
明日海りおさんが、政治のためなら非情な策略も厭わない中大兄皇子を愛と友情を持った邪馬台国の風のタケヒコとは別の視点で演じてくれました。
ただ、その非情な中大兄皇子も、そばに太陽のように支えてくれる額田王がいないと、力を発揮できない?という弱さを彼女に吐露するあたりが人間的で良いと思います。
額田王は、中大兄皇子の非情さに反発しながらも、その力に惹かれていく、あるいは、彼の政治的な孤独感を知ったためか、だんだんと愛していくようになっていく姿が良く表現されていたと感じました。
でも、何といっても万葉集などで有名な蒲生野での大海人皇子とのお互いを想い歌う相聞歌のあとでの額田王のセリフ「こうして見つめ合っているだけで、心は通じます。」が、私のお気に入りです。
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柴田侑宏先生が、クロード・アネの「マイエルリンク(マイヤーリンク)」を世界で初めてミュージカル化された作品と伺っています。
オーストリア帝国の皇太子ルドルフとマリー・ヴェッツェラ男爵令嬢とのひと時の楽しい恋は、皇太子の妻の母国との外交問題の危険性や次期皇帝の座を巡る政治的な問題に翻弄されていきます。
最終的に、二人は追い詰められて死を選ぶのですが、マリーの「お話の終わりに、ルドルフとマリーは、一緒であれば最後はめでたしめでたしですわ。」「逝くときはいつかはおっしゃらないで、その必要はないから。」の言葉は、死出の旅と解かっていても、全面的にルドルフを愛し、信頼している証であり、思わず胸に込み上げるものがあります。
エンディングで雪の中をテーマソングの流れる中、楽しそうに踊る二人を見ていると「ベルサイユのばら」とはある意味異なる、良い意味での宝塚歌劇団らしい作品と言えるのではないでしょうか。
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この原作コミックは28巻あるのですが、これをわずか1時間45分にまとめ上げた宝塚歌劇団の先生方に感謝申し上げます。
それでいて、ストーリー的には、省略せざるを得ない部分があったものの、原作の本質は崩さずに作られていて、原作を読んだ人も、読んでいない人も共に引き込まれる作品になっていると思います。
カイルやユーリ、キックリ、イルバーニ、ナキア皇太后は、原作にほとんどそっくりで驚かされました。
ラムセスは、芹香斗亜さんの個性を活かしたイメージになっていて、良かったと思います。
また、限られた時間内に演じられた作品であるにもかかわらず、主要登場人物のポイントとなる決めセリフは、きちんと押さえられており、私には何度見ても飽きない作品となっています。
「新源氏物語」や「あさきゆめみし」にしても長編なのに、これだけの原作を限られた時間の中で演出してしまう宝塚歌劇団の先生方には、頭の下がる思いです。
ありがとうございました。
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まず、驚かされのは、宝塚歌劇団の取り上げる時代の幅が非常に広いことでした。
大河ドラマも驚きの時代把握率だと思います。
スサノオやMAHOROBAのヤマトタケルのミュージカルもありましたが、中国の歴史書で年代が特定できる最古級の人物の一人が、今回取り上げられている倭の女王(邪馬台国を含めた倭の国々の連合の女王)ヒミコです。
オリジナルキャラクターで邪馬台国の兵士となったタケヒコ(明日海りおさん)や実在の人物であるヒミコ(マナ:仙名彩世さん)たちを絡めて、愛情とそれぞれの苦悩や友情を交えて、とてもわかりやすいストーリーに仕上がっていると思います。
また、実際にこの時代に起こった日蝕も入れて、物語を構成しており、宝塚歌劇団の先生方には頭の下がる思いでいっぱいです。ありがとうございました。
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数ある花總まりさんのトップ娘役作品の中でも、高い評価を受けている作品ですね。
鉄か氷のような表情から、結婚を申し込む男性に謎を解くことができないと処刑してしまうという王女トゥーランドット:花總まりさん。その王女が、求婚者の王子カラフ:和央ようかさんが、自分の出す謎を全て解いてしまうことに、うろたえる表情や逆に王子から謎を出されて恐れを抱く表情、自分自身の心の葛藤と向き合いながらも、徐々に王子の情熱に心を溶かされて愛情に変化していく表情。その変遷が見事に映し出されていて、とても素晴らしかったです。
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井上 靖先生の原作で、トップ娘役の壇 れいさんが楊貴妃の再来と言われた作品ですね。玄宗皇帝の開元の治と称えられた善政から楊貴妃の一族を重用しすぎたことから、安史の乱を招き、楊貴妃に死を与えざるを得なかった悲しみと嘆きを解かりやすく、ミュージカルにされています。
特に先ほども書きましたが、自軍の兵士たちの不満を抑えるべく、個人的には罪のない楊貴妃に死を与えざるを得なかった玄宗:湖月わたるさんの愛と哀しみ、玄宗を愛しつつも、自軍の兵士たちが反乱を起こさないよう自ら死を賜る楊貴妃:壇 れいさんのもう一方の愛と哀しみがとてもよく表現されていました。
最後に、安史の乱の後、仙女となった楊貴妃に玄宗が再会し、楊貴妃から形見の品を手渡された玄宗が、観音菩薩の姿で去っていく楊貴妃の姿を見送るシーンが、宝塚らしくて良かったと思いました。
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1994年から2006年まで、トップ娘役を務められた花總まりさん。
ページを読むにつれて、少女期の額田王やマリー・ベェッツェラ男爵令嬢の屈託のない明るさ、エリザベートが皇后になってからの中年期における穏やかでかつ自分の確固たる意志をもった気品、同じく老年期の陰影と孤独感の演技はとても難しく、なかなか表現できるものではないでしょうか。
感動をありがとうございました。今後のご活躍をお祈り申し上げます。
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昨年の話になりますが、某テレビの大河ドラマで、花總まりさんの演技を拝見いたしました。
後の徳川家康の妻になる瀬名姫の母親の役をされていたのですが、中年から老年期に向かう女性の役のため、声のトーンを下げて、言葉もゆっくりと気品を持たせて、表情もやや影を出されていたところが、素晴らしかったです。
やはり宝塚歌劇団でいろいろな役柄をされて、スーパートップ娘役と呼ばれていた理由がわかるような気がしました。
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何といっても、最後の最後にオペラ座の怪人:ファントムが死ぬ直前に射した一筋の希望というか光明がとても印象的でした。
愛するクリスティーヌをスターにするために、歌のレッスンや彼女を陥れようとする陰謀から守るために、殺人まで犯してしまうのに、彼女のたっての頼みで、仮面の下に隠された酷い傷を見せたにも拘わらず、彼女は恐怖で逃げてしまうと非常な哀しみを味わうところがかわいそうでした。
ただ、殺人犯として警察との攻防の中で、自分の仮面の下の酷い傷を他人に見せずに死ぬことを望むことを知る真の父が、苦渋の決断でファントムを銃で撃つこと、その死の直前に本当の愛に目覚めたクリスティーヌが優しく彼の仮面の下の酷い傷に口づけをしたことにより、ファントムが安らかな死を迎えることができたことが、私にも一筋の光明となり、救われた思いでした。
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最初は、この子は「鬼っ子」であると父親である徳川家康に嫌われていた松平忠輝であったが、成長するにつれ、忠輝を将軍にするべきであったと後悔する家康。
その家康を、兄・秀忠が襲撃するのを、身を挺して防ぐ男気やひたすら忠輝を愛する五郎八姫の想いに応えられずに別れる道を選んでしまう不器用さを上手く表現した作品であろう。
また、父・家康が自分が死んだ後、忠輝の身の安全を図るため、敢えて勘当して形見の野風の笛を渡したところ、すぐにその意味を理解し、その後は、孤高の人(忠輝にとっては自由人とも言える)として生きることを決意するなど、随所に主演男役である轟 悠の魅力が活かされていたと思う。
最後に豊臣秀頼が千姫の身がらを大坂夏の陣にて忠輝に託すなど、二人の思いもかけない信頼関係があったところも良い。